ジョギングで転倒して唇を6針縫った翌日、私はさすがに会社を休みました。
新聞記者は少々体調が悪くても無理をして出勤するのが美徳とされていますが、痛み止めを飲んでも身体がだるく、仕事に身が入りそうにありませんでした。
幸いにも外側の唇には傷跡はありませんでしたが、唇は内側から腫れ上がり、横から見るとアヒルのような奇妙な感じになっていました。
夕方ごろに私は慶應大学病院からもらった書類を持って、行きつけの歯医者を訪ねました。抜糸は歯医者でやってもらいなさいとのことだったのです。
「傷が一生残るようなことにはならないだろうか・・・」
そんな不安を抱えながら、私は自分の順番が呼ばれるのを待ちました。
思ったより軽傷?
「いやー、ジョギング中に転倒とは災難でしたね」
聞けば先生もジョギングをするということで、転倒の辛さはよくわかっているようでした。
慶應大学病院からもらった書類には当日、どんな処置をしたのかが書いてあり、先生はそれを読んだ後、私の上唇をめくって傷口をしげしげと眺めました。
「うん、しっかり縫ってありますね。これなら1週間くらいで抜糸できると思います。全治2週間くらいですかね」
まだ若手の研修医に縫われてどうなることやらと思っていた傷口ですが、しっかり処置してくれていたようです。
救急車に運ばれて全治2週間なら、怪我の部類としては軽いといえるでしょう。
「よかった・・・」。私は少しホッとしました。
前歯が痛む
ただ、心配だったのは2本の前歯にも痛みが走ることでした。
「どうでしょうね。神経は死んでいないと思うんですが・・・。神経が死んでしまっている歯はもっとぐらぐらになってしまうものなんですよね」
先生は私の前歯を器具でつかんで軽くゆらしたりしながら、こう言いました。
歯は強い衝撃を受けると中の神経が死んでしまい、その場合、歯に穴を開けて神経を取り出し、代わりに詰め物をしないといけないということでした。
「ただし、それを確認するにはもう少し様子を見ないとだめですね。あと、歯の痛みは1ヶ月以上は続くかもしれません」
そんな先生の言葉を聞き、私はまた不安が高まるのを感じました。
歯が黒ずんできた
そして1週間がたち、待望の抜糸の日がやってきました。
そのころには唇の腫れもかなり治まり、ぱっと見は怪我をしたようには見えない状態になっていました。
先生は小さなハサミで糸をパチン、パチンと切ってくれ、短時間で処置は終了。帰宅して改めて上唇をめくってみると、横に1.5cmほどの細長い傷ができていました。こちらのほうは後は時間がたてばうまくなりそうでした。
ただ、その後、2週間ほどたって、前歯に恐れていた異変が出始めました。2本のうちの1本が徐々に黒ずんできたのです。
歯の神経を抜く
「あー、これはやっぱり神経がだめになっていますね」
再び病院を訪れた私に、先生はこう告げました。
このまま放置すると歯はどんどん黒ずんでくるということで、私はすぐに神経を抜いてもらう処置をお願いしました。見た目にも格好悪く、早く何とかしたかったからです。
先生は歯に小さな穴を開け、金属の針のようなものでごそごそと歯の中をいじり、細い糸のようなものを取り出しました。
「これが歯の神経です」
今となっては死んでしまった神経ですが、私は物珍しい気持ちで眺めていました。
その後、神経を取った歯の内部を掃除したうえで代わりに詰め物をし、処置は終了しました。
「神経が死んでしまった歯は、今後どうなるんでしょう?」
私は恐る恐る聞きました。
「まあ、枯れ木のようなものですね。でも枯れ木でもしっかりケアすればきちんと働いてくれます。ただ神経が無いので、虫歯になってもなかなか気づかないといったリスクはあるので、定期的にチェックする必要がありますね」
先生にこう言われて少しほっとした私でしたが、前歯に関してはその後も苦難が待ち構えていることをその時は知る由もありませんでした。
歯の資産価値はいくら?
話は少し飛びますが、歯の資産価値って一体どれくらいと言われるかご存じでしょうか?
日本予防医学協会によると、
【日本人の一般の人が思う価値】
歯1本 約35万円 口の中全部(28本)で、973万円
【歯科医師が思う価値】
歯1本 約104万円 口の中全部(28本)で、2913万円
ということで、専門家に言わせれば、人一人の歯には何と約3000万円の価値があるとのことです!
歯は一生ものなので、大切にしなければいけませんね。皆さんもお大事にしてください。
次回へ続く。
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